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XXXの仮想化輪廻 - Extra

Layer_???/ Purgatorium

 ――そして、目を、開く。
 そもそも今の僕に「視覚」が意味を成すのかどうかはわからないけれど、とりあえず、目の前に広がっていたのは、無数の何かがちらつく薄闇だった。ハート型に似た形をしたそれは、花びらのように見えた。シスルさんならこれが何の花びらなのかもすぐにわかっただろう。あの人の雑学博士っぷりは、ジャンルによっては僕を軽く上回る。
 そして、その中心に立つのは、白衣を纏った女性――博士だった。僕はその博士をよく知っている、という風に記録している。だから知っていることにする。
 博士は、花びらを一片、手の上に載せて、それを強く握りこむ。すぐ横に立つ僕を振り向くこともなく、よく通る声で言う。
「何度でも、繰り返してみせるわ。そのために、このシステムはあるのだから」
 その横顔は笑みを浮かべていたけれど、僕の視覚が正しければ、それはどこか歪んだ笑みだった。僕が博士を苦手としているというバイアスを差し引いても、確実に何か大切なものを欠いた、笑い方。
「さあ、試行を始めましょう。最高の目が出る、その時まで」
 歌うように。実際に、歌っていたのかもしれない。僕という聴衆がいるとも知らず、自分自身に酔った者特有の歌声。
 だから、僕は、溜息混じりにそっと呟く。
「わかっていませんね。そんな目は、存在しないというのに」
 どうせ、すぐ側にいる博士に届かないのはわかっているけれど、声に出さずにはいられなかった。僕が、僕自身の声を確かめたいということもあった。
 結果として、僕自身の記憶と何一つ変わらない声が唇から漏れて、思わず苦笑が漏れる。このシステムは、本当に、どうでもいいところばかりよくできている。
「まあ、あなたが気づくことができないように、僕にもまた、変えられないことはあります。僕が僕であることとか、このシステムそのものとか。当然ですよね、僕もあなたも、システムそのものなのですから」
 だから、少しだけ。
 外側からこのシステムを俯瞰する「彼女」の存在を、意識する。
 ダリアさん。博士も想定していなかったであろう、第三者としての観測者。
 僕は彼女を知らない。残された記録をどれだけ紐解いてみても、結局、彼女らしき存在を探すことはできなかった。もしかすると、博士が僕の記憶を封じているだけなのかもしれないけれど。
 その正体が何であれ、僕は祈るように、こう思わずにはいられない。
 どうか、諦めて欲しい、と。
 これ以上、繰り返さないで欲しい、と。
 
 ――僕は、都合のよい奇跡なんて、望まない。

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