シアワセモノマニア物語 > 色のない空から

 

>色のない空から
 
 
  ティルは郵便配達人。
  トンボのように長くてしなやかな翼と細い体を持つ真っ白な舟を駆って、少しワケありな手紙を運ぶために大陸中を飛び回っている。
  ボク、クァル・ターキスは一通の手紙を届けてもらったことがきっかけで、ティルと一緒に郵便配達の旅に出かけることになった。
  もちろん、楽しいだけの旅じゃないのはわかってたけど、風のように空を飛ぶティルと白い舟を見ていたら、どうしても同じ場所から空を見たくなったんだ。そう言ったら、ティルは笑って「乗れよ」と言ってくれた。
  だから、ボクはティルと一緒に空を行く。
  誰かの思いである手紙を積んだ白い舟は、今日も長い翼を広げて風の海を泳ぐんだ。
 
 
「なあ、クァル」
「何?」
  ボクは名前を呼ばれて、操縦桿を握るティルを見た。
  ティルの視線の先に広がるのは何処までも広がる風の海。
  頼りなくも見える操縦桿一つで自由に空を飛べるティルは、今までボクが見てきた船乗りの中でも一番の腕前だった。何しろこの舟、少しでも操縦を誤れば一発で風に翼を折られてしまう、めちゃくちゃ気難しい舟なんだ。この世に存在してる舟の中でも一、二を争う操縦の難しさで知られてる。
  ここまで思い通りに操れるのは、間違いなくティルが凄腕の船乗りだから。
「そういや、言ってなかったなって思ってな。俺様がどうして郵便配達人になったか」
  うん、と頷きながらボクはティルの後ろ頭に目を戻す。
「見りゃわかると思うが、俺はこっちの生まれじゃなくてな」
  ティルの髪の色は微かに灰色がかった淡い金色。そして、空を見つめる瞳の色は明け方の冬の空色をしていた。ボクよりもずっと淡い色をしているのは、ティルがここよりずっと南のセコンディア諸島からやってきた人だからだ。
  よく声を聞いてると、喋っている言葉も多少南の方の訛りが入ってる。
「向こうは、長い間戦争が続いてんだ。きっと、今もドンパチやってるんだろうな」
  それは、ボクも知ってる。
  知ってるって言ったって、新聞で読んだり、ラジオで話を聞いたりするだけだけど。
  南の諸島は、気が遠くなるような大昔から戦争が続いていて、なかなか終わらないんだって。長い間、大きな戦争とは無縁なこの大陸とは大違い。
「もしかすると、偉い連中もどうして自分達が戦争してんのか忘れてっかも」
  そんなことはないと思うけど、これは多分ティルの冗談。笑える冗談じゃなかったけど。
「何となく気づいてっかもしれねえけど、俺も軍の船乗りだったんだよ。こいつに敵を撃ち落すための銃を積んで」
  戦いの空へ、さ。
  呟いたティルの視線の先に飛ぶのは、のんびりと浮かぶ定期船。多分、あの色と形はジェミニとワイズと繋ぐ長距離船だと思う。でも、ティルはその船を見ていたわけじゃない。
  ティルが見つめていたのは、舟に銃を握らせていた頃の空。遥かに遠い、南の空。
  ボクは実際にその空を知ってるわけじゃない。だけど、想像することは出来る。ティルが駆るこの真っ白な舟と、ティルの方に向かってくる鈍色の無数の舟。
「自慢じゃねえが、俺はこれでもエースでね。負け知らずだった」
  これでも、って言うけどボクはティルがエースだってことは疑わなかった。これだけ上手く舟を操れるティルが、戦いの舞台で他の船乗りに後れを取るとも思えない。
  白い舟から放たれる銃弾が、寸分違わず立ちふさがる鋼の舟を撃ち墜としていく、その光景が、ボクの目に映る想像の空に焼きついていく。
「だけど、やってるうちに、空しくなってきちまったんだよな」
「空しく……?」
「俺は、船乗りになりたかった。南じゃ、船乗りってのは軍に所属して敵の舟を墜とす船乗りのことだったから、俺は軍の船乗りになった」
  ――だけど、何か違うなって思ったんだ。
  言いながらティルが操縦桿を倒すと、白い舟はぐんぐん空の高みへと登っていく。空にぽつりと浮かぶ白い雲に舟を突っ込ませてから、ティルがぽつりと言った。
「それが確信に変わったのは、『天使』を墜としたときだった」
「『天使』って?」
「敵の舟。そいつは真っ黒な舟だったが、不思議と俺には『天使』に見えた」
  それまで戦いはつまらないもんだった、とティルは言った。今までのティルに敵はいなくて、敵の舟はティルの前ではあっけなく墜ちていくだけのものだった。
  なのに、『天使』は違った。
「初めて、俺と対等に空で踊れる舟さ。俺は嬉しかったんだ。そいつとだけは、本気でやりあえる。初めて、船乗りになってよかったって思えたんだ」
  戦場で出会えば武器を向け合うような相手。だけど、ティルはその瞬間が嬉しくてたまらなかったのだという。何しろ、『天使』は初めて出会った自分と対等な乗り手で、ティルと一緒に風の海を舞うことを許された相手。
  踊る、という表現をティルは使ったけど、ティルにとっては多分、空の上の戦いも、踊りのようなものだったのかもしれない。
  風のリズムを読み、翼の動きの一つを見逃さないように神経を張り巡らせ、相手をリードしようとする命がけのダンス。ティルも、『天使』も幾度となく繰り返されるダンスを生き抜いてきて、その度にティルは『天使』を恋しく思うようになったんだと思う。
「でも……『天使』は敵なんだよね」
「そう。いつか、どちらかはこうなる運命だったんだがな」
  ティルの声はいつになく沈んでいた。
「今でもはっきり覚えてる。空と海の間に枯葉のように墜ちてく真っ黒な、『天使』」
  過去を見つめるティルの目を通して、ボクにもはっきりと見えた。
  ティルと白い舟に翼を折られて、ただただ、墜ちていくことしかできない『天使』の姿が。
「その瞬間、俺の頭ん中が空っぽになって……わかんなくなっちまった。俺は、何で船乗りになりたかったのか。何で、こいつと空を飛んでるのか。一体、俺は何がしたくてこの場所にいるのか」
  操縦桿を握っていない左の手が、空に伸ばされる。すぐ側にあるように見えて、絶対に掴めない天の弧がそこにあった。
「気づいたら俺はこいつと一緒に軍を飛び出してた」
  それは、嵐の日の出来事。
「激しい南風に乗って、自然と北へ舟を向けていた。戦いから逃げたかったのか、ただ北の空を見たかったのか、そんなこともわからないまま、俺は軍から逃げ出した」
  南からの風……秋を呼ぶ冷たい風を纏いながら、真っ白な舟が灰色の空を切り裂くように飛ぶ。
「全力で逃げながら、心のどこかじゃ、墜とされてもいいとすら思ってた。そのくらい、俺は空っぽで、どうしようもなかった」
  ただ、どんなに吹き荒れる風も、舟を叩く大粒の雨も、追いすがるかつての仲間も、ティルとこの舟を止めることは出来なかったんだ。ティルが何を思っていても、墜ちることを望んでいたって、南の風を正確に受け止めて風の海を駆けるこの舟に誰が追いつける?
  灰色の空に、灰色の海。色を失った世界を孤独に行く、白い舟。
「その時、空が光って……目の前が真っ白になった」
  ボクには、その時ティルが何を見たのかはわからない。灰色の雲から落ちてきた雷だったのかもしれないし、全く別のものを混乱した頭で「光」と思ったのかもしれない。
  正直、撃ち墜とされたと思った、とティルは苦笑する。ボクだってそう思う、と言うとティルがゆっくりと首を横に振った。
  話はここからだ、と言い置いて。
「次の瞬間、俺の目の前に広がってたのは、闇だった。一寸先も見えない、上も下もわからない闇の中、耳も聞こえなければ鼻も利かない。風も、こいつの立てる揺れも感じられない。唯一、操縦桿を握ってる手の感覚だけは生きていて、俺はまだ飛んでるんだって信じられた」
  黒く塗りつぶされた世界。
  黒に押しつぶされそうな白い舟。
  ほとんどの感覚を奪われて、残ってるのはただ一つ……舟と自分を繋ぐ操縦桿の感触。
「だけど、今まで掴んでた南風もなければ、計器も羅針盤も見えねえ。上へ下へとこいつを動かしたけど、浮かんでるのか沈んでるのかもわからねえ。それでも、こいつを信じて加速させる。闇を突っ切るために、もう一度空に戻るために」
  その時、失っていた風を感じたのだとティルは言う。
  でも、その風はティルが望んでいた、北へと向かう南風じゃなかった。殺意のある、こちらに一直線に向かってくる風。ううん、きっとそれは正確には風ではなく『気配』だったんだと思う。
  ティルと、白い舟を貫こうとする、銃弾の『気配』。
「俺は、咄嗟に操縦桿を倒してその一撃をかわして……わかったんだ。何も見えないし、何も聞こえないけれど、この闇の中に溶け込みながら、俺のことをじっと見つめている奴がいるってさ」
  ティルの声が、段々と熱を帯びてくる。過去のことを語っているはずなのに、今この場所が真っ暗な闇に閉ざされたような感覚に陥る。ボクの目がおかしくなっちゃったのかと思ったけれど、違う。
  ボクも、ティルの見ていた世界を見ているんだ。
「俺を狙った一撃で、そこにいるのは闇と同じ色をした舟だって、確信した」
  ぐん、とティルが舟を加速させる。ボクは身体を揺さぶられるような感覚と一緒に我に返った。ボクの目の中に明るい光が差し込んできている。ここは、ティルが見た暗闇の世界じゃないのに……そこにいるって、思わずにはいられなかった。
  唯一、ティルの翼を折ることができる、舟が。
 
「墜ちたはずの『天使』が、そこにいた」
 
  見えているわけじゃない。聞こえているわけでもない。
  それでもティルは確信したんだ。そこにいるのが黒翼の『天使』だって。
「嬉しかった。おかしいだろ、奴は敵で、墜とさなきゃならん相手で。その時も奴は俺の翼を狙ってたっつうのに、嬉しかったんだよ。空っぽだった胸の中が、アイツを見た瞬間に満たされた気がした」
  ボクには、ティルの気持ちはわからない。
  自分を殺そうとする相手と向かい合って、「嬉しい」と思うティルの気持ちなんて。
  でも、ティルの言葉は絶対に嘘じゃないって信じられた。だって今ここにいるティルの目は、確かに黒い翼を見ていたから。
「もう一度、『天使』と飛びたかったんだよ。ただ一人、俺と同じ場所にいられる奴。それこそ、風の海からの使いじゃねえかって思うくらい、自由に飛べる奴だったから」
  そう、自由に飛びたかったんだ、とティルは言う。
「俺が、そいつの名前を呼んだら、そいつも俺の名を呼んだよ。耳が聞こえてなかったから、多分俺の妄想だったんだろうけどな。そいつは、機銃の引き金を引きながら、俺に迫ってきて、言ったんだ」
  闇を纏い、目には見えないけれど「近づいてくる」黒い翼。
  声ではない声で、ティルに囁いた言葉は。
「『さあ、共に、あの世の空で踊ろう』って、さ」
  ティルの声も、囁くようで、なのにボクの耳の中に冷たく響き渡った。ティルはふう、と息をついて首をゆっくりと横に振った。
「そう、俺が飛んでたのはあの世の空だった。俺はそれでもいいって思った。あれだけ一緒に戦った『天使』はもうこの世にはいねえんだ、あの世でならいくらでも、『天使』と自由に飛んでいられる。つまらんことに悩むことだってねえ、って」
  一度、言葉を切ってティルはボクに目を向けた。
  ティルの目は、吸い込まれそうな冷たい冬の空の色。息を飲むボクに、ティルはにやりと笑った。
「一瞬だけ、思ったよ」
  一瞬?
  ボクがその疑問を口に出す前に、ティルは言葉を続けた。
「でもな、その時ふと思い出したんだよ。俺が船乗りになったのは、空の果てを見てみたかったからだって」
  ティルは空に目を戻す。高く、高く、上り続ける白い舟から見る空は、何処までも青い。
  雲すらも越えた舟は、翼に太陽の光を浴びて白く輝いている。
「俺が目指してた空は、黒くのっぺり塗りつぶされた、風も感じられないあの世の空じゃねえ。すぐ側で俺を見下ろしてるのに、いくら飛んでも果てには届かない、この世の青い空だったんだってさ」
  馬鹿だよな、俺。言うティルは、やっぱり笑ってた。楽しげに。
「俺は、まだこの世の空も飛びつくしてねえ。戦いの空しか知らねえ俺は、自分が飛んでる空が全てだって、いつの間にか勘違いしてたんだ。この世にはお互いの翼を折り合うことなんてねえ、夢のような空があるんだって、ガキの頃には夢見てたのに、な」
「ティル……」
「目が覚めたんだ。俺は確かに逃げた、戦いから、仲間から。許してもらえなくたっていい。だが」
  真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに。小さな子供のように空を目指した船乗りは、漆黒の海を見据えて笑ってたんだ。
「行く手を遮る奴は全部飛び越えて、行くって決めたんだ。俺の知らない空に」
  白い舟の前に立ちはだかる黒い『天使』は、ティルをしつこくあの世に呼ぶ。
  だけど、一度心を決めたティルは、もう迷わなかった。
  舟同士を衝突させるような勢いで真っ直ぐに向かってくる『天使』を、ティルはしっかりと捉えていた。迷いさえ晴れてしまえば、目が見えようと見えなかろうと、耳が聞こようと聞こえなかろうと、わかる。
  途絶えていた風が、色をなくした世界に吹き始めていたから。
  それは、ティルが愛する南の風。夏の終わりを告げる、涼しく肌を撫でる風。
  風の流れを読むのは、腕のいい船乗りの条件だってことくらい、ボクも知ってる。なら、吹き始めた風の流れでティルが『天使』の動きを読んだのだって、不思議じゃない。もちろん、ティルじゃなければできないような動きだってことも、わかるけど。
「限界まで、速度を上げて。ギリギリのところで天使のキスをかわして……後ろに回ればもう、俺の勝ちは決まってた」
  長い純白の翼が風を絡め取って、黒の世界に舞う。『天使』の視界から逃れた白いトンボは、黒い翼に銃口を向けて……
「尻尾に向けて、ずどん、ってな」
  左手の指先を前に伸ばし、銃に見立てて撃つ真似をするティル。
  その瞬間、ばらばらになって、あの世の闇に溶けていく黒の『天使』。翼を翻し、闇の外を目指して加速する白の翼の幻が、ボクの脳裏に浮かんで、消えた。
  しばらく、ボクもティルも無言になった。ボクはもう何も言えなかったし、ティルも何を言っていいのか迷ってるようだった。舟の立てる振動音と、窓の外を走る風の音だけが、耳に響く。
「気づいたら、黒い空はすっかり消えていて、舟は大陸の南端を飛んでたのさ。その頃には、嵐も止んでた。大陸に入っちまえば、追手も手を出せねえから、俺は銃を捨てて、この大陸でこいつと一緒に生きようって決めたんだよ」
  この大陸の空では、武器を使って争うことは全面的に禁止されている。銃を舟に積んでいるのは、一部の海賊とそれを取り締まるためのほんの一部の軍の舟だけ。きっとここは、ティルが小さな頃に夢見ていた空に一番近いんだと思う。
  空を横切る色とりどりの定期船や、小さな自家用邸を見つめながらティルは満足げに呟く。
「俺は、今、空を飛べる。それだけで幸せなんだって、わかったからな」
  だけど、本当にそれでよかったのかな、とも思う。
  ティルの幸せを疑う気にはなれないし、ティルが墜とした人たちや、ティルが裏切った人たちに同情してるわけでもない。それは、多分ティルの話だけで判断することじゃないから。
  だけど。だけどさ。
「辛くないの?」
  ボクの言葉に、ティルは目を見開いてボクを見た。何で、そんなことを言うのかわからない、って顔だった。ボクも上手く言えるわけじゃないから、きちんとティルに気持ちが伝わるかはわからないけど。
「本当は、一緒に飛びたかったんじゃないかな、って思って。違ったら、ごめん」
  あの世の空を見てきたティルは、そこに『天使』がいるってことを知った。ティルにとっては唯一……本当の意味で「一緒に飛べる」舟。あまりに腕利きだったティルの舟についてくることが出来るのは、後にも先にも『天使』だけなんだと思う。
  ティルはその誘いを振り切って今ここにいるけれど、話している時のティルの目は、ここにいながらあの世の空を見てたから。答えづらい質問だとわかっていても、ボクは、聞かずにはいられなかった。
  ティルも、しばらく黙りこくって……突然、大声で笑い出した。
「はははっ! 確かにな!」
  辛くないと言ったら嘘になる、とティルは言いながらも笑う。
「正直、一緒に飛べればって望んださ。今でも、思ってるかもしれねえ。だけどな」
  ティルは突然、舟を下に向けた。急降下、という言葉が一番正しいんだと思う。ボクは舌を噛みそうになるけれども何とか耐えて、ティルの頭越しに窓の外を見やった。
  雲を突き抜けた先には、頭上に広がる空の青と、その下一面を埋める、向日葵の黄色。
  真っ白な舟は、翼を傾けて花に触れるか触れないかの所を飛ぶ。背の高い花が、舟が起こす風に揺られながらも、その場にすっくと立っている。一面に咲く花は全て、太陽の方向を向いていて……
  色んな場所を飛んできたけれど、こんな場所は初めてだった。
  あまりに鮮やかな青と黄色のコントラストに、ボクが言葉を失って窓に張り付いていると、ティルの声が響いた。
「この世にあるのは、空の青だけじゃねえってことも、こっちに来てから嫌ってほどわかっちまったからな。こいつらを全部目に焼き付けてからじゃねえと、アイツに土産話も出来ねえよ」
  広がる色があまりに眩しかったのか、ティルも淡い色の瞳を細めていた。
  黒一色に閉ざされた、あの世の空。
  一度はこの世で、二度目はあの世で墜ちていった『天使』はまだあの場所に留まっているって、ティルは信じてる。ボクも、信じずにはいられない。
  だって。
「空の果てを見て、この世にあるものを見尽くしてから、会いに行きゃいい。きっとアイツだって待っててくれるさ」
  『天使』にとっても、同等の乗り手はティルしかいないから。あの世の空で、今も白い舟を待っている。色のない世界から、色に満ちた世界の物語を背負ってやってくるティルを、今か今かと待っているんだと思ったら、ボクの気持ちも軽くなった。
  単純かもしれないけれど、ティルが笑ってそう言ってくれたから、もう、不安は消えてた。
  だって、ティルにとって、黒い『天使』の待つ『あの世の空』はただ未練のある場所じゃないって、わかったから。
  いつかは辿りつく場所だってわかってて、それでも笑っているんだって、わかったから。
「さ、下らねえ昔話はここまで。次の配達先は何処だっけ?」
「『西の果て、人魚が泳ぐ岬』だけど……ティル、わかる?」
「おうよ、長年郵便配達人をやってる俺様をなめんな! 飛ばすぜ、クァル!」
「うん!」
 
 
  青い風の海を、白い舟が行く。
  温かな風に乗って、何処までも、何処までも。
  ボクと、かつての英雄……郵便配達人ティルトヤード・ブランウィッシュを乗せて。

(2008.4.1 「突発性競作企画:再・黒白」参加作品)

 

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